第1回
『コミュニティ・カーシェアリング』シンポジウム in 石巻 開催レポート

事例報告

石巻のコミュニティ・カーシェアリング事例報告・オーストリア視察報告

一般社団法人 日本カーシェアリング協会 代表理事 
吉澤 武彦

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動画でもご覧いただけます。

※講演内容を忠実に書き出ししておりますので、一部表現が話し言葉の部分もありますがご了承ください。

オーストリア「CARUSO Carsharing eGen」視察報告

自治体との連携にヒント

日本カーシェアリング協会の吉澤でございます。このような形でシンポジウム、しかも市役所の場所をお借りして、オーストリアからChristianが来ていただいて、お話しできることを本当にうれしく思います。
まずはオーストリア視察のご報告と経緯を合わせてご説明させていたき、この5年間石巻でやってきたことをご説明させていただきます。
オーストラリア視察は、今年の2月、ウィーン工科大学の柴山先生から届いた1本のメールがきっかけでした。「オーストリアで住民同士のカーシェアリングをやっているところがあり、それを研究している。石巻でもよく似たような形のスタイルでカーシェアリングをやっているので、ぜひそれを研究したい」というご相談でした。「え、ウィーンから?」と思いましたが、とても光栄に思いまして、是非是非というような形でお受けしたわけです。
なんと、柴山先生は石巻出身でした。早速、3月と4月に来ていただきまして、現場のヒアリングをしていただきました。
そこで、「オーストリアはどんな感じでやってますか?」と伺ったところ、僕らと同じように皆さんでルールを決めてやっているのですが、もっとITを使い、スマホやパソコンでインターネット予約などをしながら、誰がどれくらい使ったかということを凄くスマートにやっているということでした。僕らは手書きで運転日誌を付けてやっているので結構大変なんです。そこで、「すごいな、僕らも見に行きたいな」と思い、柴山先生に「紹介してください」とお願いし、この6月、いつも応援いただいている方々と一緒に行ってきたというわけです。
本日も来ていただいているChristianは、オーストラリアの田舎のブレゲンツというところにコミュニティ・カーシェアリング「CARUSO」 を作った方です。現地の自治体とか交通機関を調整している運輸連合を視察させていただき、色んな自治体や公共交通機関との連携が非常に参考になりました。 石巻の取り組みにどう生かせるかという事を考えていたところ、ちょうど復興庁が地域自立支援事業を募集されていると知り、申し込みをして本日のシンポジウムを実施させて頂いたというわけです。
本日は、いろいろな先生方にも来ていただきましたし、オーストリアの事例と石巻の事例をテーブルに置きながら、そこから見えるものを、是非ざっくばらんに議論出来たらと思います。

石巻のコミュニティ・カーシェアリング事例報告

震災時の仮説住宅における「移動困難者」を目の当たりにして・・・

さて、ここからは石巻の事例について紹介させていただきます。
僕らは震災直後に福島に入って支援活動をしていたのですが、石巻でコミュニティ・カーシェアリングがスタートしたのは、阪神淡路大震災で支援活動を7年半されていた神戸元気村の代表の山田バウさん(山田和尚氏)から、「仮設住宅へ避難所にいる方が移るから、みんなで共同でカーシェリングの取り組みをやったら」と提案されたのがきっかけでした。
僕はその頃、ペーパードライバーだったので、どうかと思ったのですが、現場に入って車が流されているのを見て、「車が絶対必要だ」という事が分かり、それをみんなで使うのは凄く良いことだと思い、提案を引き受けたわけです。
「何とかなるだろう」と安直に考えていたのですが、最初は車がなかなか集まりませんでした。4月くらいから車集めを始めたのですが、3ヵ月かかって7月にようやく1台準備でき、渡波の万石浦の仮設住宅に届けました。

この写真(上部写真参照)の3人のおじさんが、カーシェアリングを最初にやり始めた方々です。今日来ていただいている増田さんもこの中に写ってますね。
どうせやるなら、きちっとした形で堂々とモデルを作りたいと思っていたので、やってはいけないこと、ルールや法律など、陸運局や県警や石巻市にご相談し、ご指導いただき形を作っていきました。 車を届けて3ヵ月後、ようやく車庫証明を正式に頂き、仮設住宅でカーシェアリングが出来るようになりました。震災から半年以上かかってしまったのですが、ニーズは凄く沢山あったので、車を集めてなんとか届けながらやっていきました。
みんなで使いながらルールを決めてやって頂いていましたが、仮設住宅という現場で、大きなテーマとなっていたのは、「コミュニティづくり」です。
震災でいろいろ失った、見ず知らずの方々がいろいろな地域から一つのところに集められているため、そこで一から新しく関係を作っていくのは大変でした。 何しろ、今まで町内の役員をされていた方々も被災されていて、自分のことで精いっぱいで、他の方の世話をする余裕がないため自治会の役員を引き受けてもらえないという事情がありました。そんな中、鍵の番を誰がするかとか、予約は集会場のカレンダーで見て行こうとか、そういうルールを決める会話をやっていくうちに、お互いに身の上話を語り合ったり「仮設の中でごみが散らばってるよね」という話題から、みんなでゴミ拾いを始めたりするわけです。スーパーに乗合に行ったり、旅行に行くケースもありました。

「あそこのおばあちゃん、病院に行くのに困っているから手伝おうか」といった話から外出支援の活動が始まったりしている内に輪がどんどん広がっていきまして、カーシェアリングをやっている人たちがメンバーになって自治会ができたというケースも出てきました。
そんな中で、石巻市と車が足りない、移動困難者がいるコミュニティを作る必要がある、といった課題を共有して「一緒にやっていこうじゃないか」というお話を頂き、カーシェアリング・コミュニティ・サポートセンターというものを2012年の2月に設立して頂き、仮設の集会所の一室を整備して頂きまして、今まで利用されていた方をヘッドハンティングして雇い入れてのスタートでした。
カーシェアリングを始めたいという方への説明会や、メンバーを増やすサポートをやったりもしました。
下は石巻専修大学の学生さんたちです。春と秋のタイヤ・オイル交換を授業のプログラムの一環として定期的にやって頂いていおります。

2013年8月、電気自動車カーシェアリング開始

車も全国から頂いているのですが、8月には三菱自動車工業様より電気自動車も頂きました。石巻市の協力のもと、仮設住宅に充電設備を設置させていただいて、電気自動車のカーシェアリングを自治会が運営するような形で始まったんです。
電気自動車は大容量の電池を積んでますので、非常用の電源として使えます。防災訓練にも使っていきながら進めていきました。
当初は仮設住宅でしたから、急場をしのぐためにやっていたのですが、仮設住宅から復興住宅へステージが変わっていくというタイミングで、一回整理することにしました。復興住宅はずっと住み続けるわけですから、継続的にできる形をと考えたわけです。
そこで、石巻市として政策的に取り込んでいけるかどうかも含め、移動やコミュティ、防災などの効果を確認し、どのような形で継続的にできるかを検討する委員会を、一昨年11月に設置させていただきました。

当初から、石巻市のいろいろなセクションに関わって頂いてきたのですが、最初は5つの課が関わって頂きまして、今では11の課が関わって頂いています。さらに石巻専修大学、東北大学、仮設自治連の会長増田さんにも関わって頂きまして、産官学民の連携で、いろんな立場・分野から見ていって、それがどういうものなのかといったことを確認する作業をしました。
また、ここで復興庁の「新しい東北」の先導モデル事業として社会実験をさせて頂きました。
これは、吉野町の復興公営住宅(約150世帯)に太陽光パネル設置して、その太陽光パネルで充電した電気自動車でカーシェアリングをやり、効果や持続性をモデル化するというような形で6月からスタートしました。
そのなかに僕らの取り組みを導入していき、利用者の方々に使っていただいてアンケートやインタビューをし、その結果を検討委員会に伝えて意見をもらい、それをまた現場へ反映して東北運輸局や移動支援の関係の専門家にアドバイスを頂きました。そこでできた形をご紹介していきます。

石巻のコミュニティ・カーシェアリングのポイント

コミュニティ・カーシェアリングの
ポイント① 
目的は地域づくり

第1のポイントは、「目的は地域づくり」だということです。
吉野町カーシェア会は会則を定めて頂き、皆さんに運営して頂くのですが、会則の目的にも、「お互いに助け合う地域づくりを目指す」ということが記載されています。
乗り合い、車が足りない人のセカンドカー、防災、旅行等いろいろな目的で使用するのですが、ともかく、「車を共同で使いながら助け合う地域をつくっていく」。そこに主眼を置いています。乗合で旅行をしたりもします。参加費を1000円とか1500円とか頂いて車の維持する費用に充てるなど、工夫しながらみなさん便利に使っていただいています。
活動が生まれると、いろいろな触れ合いも生まれます。 これは、昨年の防災訓練でも給電をするデモンストレーションです。
せっかく電気自動車があるんだから、その電気でお茶を入れようといってコーヒー飲みながら、「いざというときは車から電気が取り出せるんだ」と皆さんに認識していただくわけです。
石巻も電気が無くてすごく困りました。でも、地域の中にEVがあると「地域に電気を絶やさない」「停電になっても太陽が照る限り充電できる」ということにつながるわけです。
これは、昨年の防災訓練でも給電をするデモンストレーションです。
昨年は8か所でやりましたが、今年は十数か所。一般のEV所持者にも参加を呼び掛けています。

コミュニティ・カーシェアリングの
ポイント② 
自分たちでルールを決める

メンバー募集のチラシ、予約は前日までなど、ルールは自分たちで決めてもらいます。外出支援を伴う場合もありますが、対価を受け取ると白タク行為になるので注意とか、運転日誌を書き、予約をカレンダーに書く、吉野町ではドアにマグネットを張り、団地の中で誰が利用しているかわかるようにするといったことです。

コミュニティ・カーシェアリングの
ポイント③ 
経費は実費を平等に清算する

経費は、みんなで平等に負担します。 経費となるのはレンタカー代、役員通信費、会を運営する労力への手当など。
定期的に精算の会を開いて実費を平等に精算します。送り迎えする人も個人で使ったときは利用料を払います。

現在、利用者は170人。運転者以外は82人。車は129台。 復興住宅に入ってから1年近く経ちますが、半分以上の人が仲が良い人がいません。しかし、コミュニティ・カーシェアリングの利用用の場合、そういう人はゼロ。仲良しがたくさんいるという人が60%もいます。友達に囲まれた生活をコミュニティ・カーシェアリングで実現できたのではとうれしく思っています。 今後は、この仕組みをほかの地域でも役立てられるように、社会の雛形をつくりたいですね。また、市と協議をしながらEVを使った防災ネットワークを構築したり、過疎地の移動に住民同士の助け合いによるカーシェアリングが活用できないかなど、いろいろなタイアップも考えています。 今回オーストリアともつながったので、日本だけでなく、世界で役立てることがあればやっていきたい。コミュニティ・カーシェアリングで、優しい未来を作りたいと思っています。