第1回
『コミュニティ・カーシェアリング』シンポジウム in 石巻 開催レポート

基調講演

カーシェアリングの発展と
草の根・コミュニティ型カーシェアリング

ウィーン工科大学交通学研究所 研究員
柴山 多佳児

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※講演内容を忠実に書き出ししておりますので、一部表現が話し言葉の部分もありますがご了承ください。

講演者の写真

1983年石巻市出身。東京大学工学部・工学系研究科社会基盤学専攻を修了。ウィーン工科大学に留学後、2011年より同大学交通学研究所研究員。2012~2013年には欧州連合の研究プロジェクトとしてCARUSOの利用者を対象とした研究調査に従事。

「シェアする」とはどういうこと?

私は現在、オーストリアのウィーン工科大学で研究員をしており、ウィーンには9年くらい住んでいます。その間様々な研究をしてきましたが、そのひとつとしてCARUSOの調査・研究をしていました。その中で地元である石巻で似たようなことが起こっていると知り、たまたま帰る機会があったときに、吉澤さんに連絡したというわけです。

さて、みなさんはカーシェアリングという言葉を当たり前のように使っていますが、そもそもシェアするとは何か、当たり前に使う単語になっていますが、本日はここでもう一度考えてみたいと思います。また、カーシェアリングは主に1990年代から試行錯誤を繰り返しながら発展してきましたが、類型化してどういうタイプがあるのか整理してみましょう。
そのあとでコミュニティ・カーシェアリング、日本とオーストリアの何が共通なのか、私の方からも日本のみなさん向けにわかりやすく説明しようと思います。

まず、シェアするというのは何かということを考えてみましょう。車以外でもシェアするという言葉は使います。最近は日本でも若い人が「食べ物をシェアしよう」という言い方をしますね。アジアだったら1つの大きな鍋をつついて食べたりするのも、ある種のシェアです。食べ物あるいは1つのものをみんなで取り分けながら使う、これがシェアの中では一番大きな意味です。

では、交通の方や世の中のシステムの中でシェアするというのは、どういうものがあるでしょう。
まず1つは空間。例えばこの部屋はある意味ではシェアして使っています。また、設備や手段、電車の空間も、空間をシェアしています。
さらに、空間をシェアする場合、同時にある同じタイミングで使うというシェアもあります。例えば、最近は「シェアフラット」、「シェアハウス」などが増えていますが、これはリビングやキッチンを共用するというもの。シェアオフィスというのもありますね。
吉澤さんの話の中に送迎の話がありましたが、車で相乗りしていくというのも、空間を同時にシェアしながら何かやっている、手段をシェアしていると言ってもいいでしょう。

また、いろんな貨物を乗せて遠くに運んでいくというのもある種のシェア。空間、設備、手段などというものを、ある同じタイミングでみんなで使ってシェアしているわけです。

もう一つ、違うシェアの形として「タイムシェアリング」というのもあります。これは時間で分けてシェアするという考え方で貸家やアパートなんかも時間で分けてシェアしていますね。レンタカーもその類で、レンタルビデオも同じ類に入ってきますし、ホテルの部屋もそうですね。ある一つのものを長い時間の中で分けて使っているというシェアになるわけです。

また、パソコンが登場する前のコンピュータの世界では、冷蔵庫みたいな巨大なコンピュータをみんなで電話回線でつなぎ、待っている時間が無駄にならないようにして、一台のコンピュータをいろんなところからつないでシェアして使っていました。公共施設などもこういう性格を持っていますね。このように、ある時間にある人が使い、他の時間帯になると別の人が使うというのもシェアです。

カーシェアリングの発展と類型

カーシェアリングを考えるとき、時間を分けて何をシェアしているかを分けて考えておかないと、頭が混乱してしまう原因になります。そのため、シェアとはどういうことなのかというのを先に整理しました。
では、今度はカーシェアリングとは何かを、世界的な流れもあるのでそれが見えるように整理しようかなと思います。

「ステーション固定型」

コミュニティを作ってカーシェアリングをやるというのは、ラフな形では戦後すぐくらいからやっていて、車が世の中に入ってくればどこかで起きています。
しかし、カーシェアリングが注目されるのは1990年代くらいから。私は「ステーション固定型」と言っていますが、固定したステーションがあって、大企業や共同組合などが所有している車を、利用者が会費を払って会員になり、使う。これは主に都市部でステーションが固定されているため、このステーションから車を出して、用事をこなして同じステーションに戻ってくるのが大前提となります。

やがて、鉄道の駅のわきや、集合住宅のわきに車がおいてあり、会員だったらどのステーションの車でも自由に使えるというカーシェアリングが、スイス、ドイツ、アメリカ、フランス、イギリスなどで普及してきました。
特に、このタイプのカーシェアリングは公共交通機関とうまく連携し、駅のわきにステーションを設置したりする。公共交通機関とうまく連携し、お互いの相乗効果を出そうというわけです。
この写真はチューリヒの駅前です。(下部左上参照)カーシェアリングの車が並んでいて、スイスでは自分が会員である場合、どこの車でも使っていい。スイスの別のところから列車で来て、駅に着いてカーシェアリングの車でチューリヒ内の用事をこなす、という使い方を想定しているわけです。
こうやって公共交通機関と連携することで、カーシェアリング自体も利用者を獲得できました。公共交通の側にとっても、例えば鉄道で末端の隅々まではいけないので、駅までとか、駅から目的地まで、ファーストマイル、ラストマイルという言い方をしますが、こういう部分をカバーするようなものとして発展してきました。 90年代からいろんなところで発展し日本でも大手の事業者がいくつかあり、例えば、レンタカー会社系や駐車場運営会社などがすでにやっています。

「フリーフローティング型」「浮動型」

次に2010年代くらいで、日本にはまだありませんが、フリーフローティング型と呼ぶタイプのものも登場しています。これは、固定したステーションがなく、ある決まったエリアがあり、どこでも乗り捨てて良いというタイプのカーシェアリング、企業が車を所有している、大都市向けという点は共通しています。自動車メーカーが初めたものが多く、ダイムラーやBMWなどのドイツの主要な自動車メーカーが、車が売れなくなって、特に若い世代に車に乗ってもらうことの楽しみを感じてもらおうというところからスタートしています。まだいろいろな試行錯誤が行われている段階です。

ウィーンのエリアの例ですが、だいたい市の主要な部分全体をカバーするよう設定されています。片道で乗っていい。例えば、行きは家からショッピングセンターまで電車で行き、帰りは荷物が多く車の方が便利なので家の前まで乗りつけようかな、とかそうゆう使い方が出来る。ヨーロッパは路上駐車なので、どっかに乗り捨てて良いという使い方出来るわけです。

街の中に車がたくさんあり、予約は出来るが30分しか抑えられません。30分しかできないということは、前日から予約するという使い方はできません。ただ、自分の近くに何かいるのを捜してすぐに使うという形のカーシェアリングが発展しているわけです。

「P2P型」「ピア・トゥー・ピア型」

これも日本ではあまり普及していませんが、ピア・トゥー・ピア型といって、車を持っている個人から別の個人に貸し出すカーシェアリングです。貸し出すときに、「私の車貸すよ」とインターネット上のサイトに出す。 例えば一日6000円で貸すとかのイメージ。私の使いたいところの近くに車に貸している人がいれば、クリックをして、個人から個人に貸し出すというタイプのものです。
これは都市部でも地方部でも使えます。個人が持っている車なのでここからスタートして乗り捨てるというわけにはいかないため、当然同じところに戻ってきます。2010年代から主にアメリカで発展しているサービスです。

先ほどのシェアとはどういう形があるのか、というところに戻って考えると、実はすべてタイムシェアリング。時間で分割してシェアしているわけです。このタイプのシェアリングは、アメリカではカーシェアリングと呼びますが、イギリスの英語になるとカークラブと呼びます。
確かにクラブという単語の本質はよくここに出ていて、要は車が集まっているのをみんなが共同で使うというのはクラブなのでこれもうまい名前ですよね。

自転車を、自動化されたステーションで貸し出すというのも、2003年にウィーンで始まっています。その後、フランスのリヨンとパリにいって、それから世界に広まった。どこかで借りて、別のステーションに片道で乗り捨てて返していい。パリはどこかに立って周りを見渡すと、ステーションが2つぐらい目に入るため、そこで借りて行きたいところに行って返すという使い方が出来ます。パリの街角で写真を撮ってみても使っている人がたくさんいて、普及しているのが分かります。自転車のシェアも、タイムシェアリング=時間を分割するシェアとして普及しています。

「コミュニティ型」

さて、コミュニティでシェアするタイプのカーシェアリングに話を戻しましょう。
オーストリアの例ではグループの中の個人が所有している。日本でやっている事例の場合は、NPOのようにノンプロフィットのところから貸し出す形です。どちらを見ていても、大体30人程度のグループがあって共同利用している。少ないところであれば、2人とか5人、多くて30人程度のとこで共同利用する。この場合、片道では使えないため、車は最後には同じところに戻ってきます。
今までのカーシェアリングと大きく違うのは、地方部でもできるようになってきたこと。最初のステーション固定型というのは、普及しているが都市部でなければ使えません。商業的にやっているため、人の少ない地方部の方でやると儲からないわけです。
一方、コミュニティ型はあくまでコミュニティでコストをカバーすればいいというやり方でやっているため、地方部でもやりやすくなっているわけです。
どちらにも共通するのは、相乗りで一緒に乗っていっていいということや、お願いできたりすることでしょう。
コミュニティが30人くらいで顔が見えていて、やりやすいため相乗りというオプションが付いている。カーシェアリングの中でも、時間で分割するカーシェアリングだけではなく、電車をみんなで使うというような空間のシェア、相乗りの要素とこの二つが入っている。

先ほど時間で分けるのは、アメリカではカーシェアリング、イギリスではカークラブと呼ぶと言いましたが、同時に車を使って相乗りしていくことをイギリスではカーシェアリング、アメリカではライドシェアと呼びます。カーシェアリングという単語がアメリカとイギリスで意味が違うわけです。

我々がカーシェアリングと呼ぶのは、イギリスではカークラブ。逆に我々がライドシェアリングと言って理解するものを、イギリスではカーシェアリングと呼び、アメリカはライドシェアと言ったりカープールと言ったりします。
ここに、用語の混乱があるため、この点混乱しないようにすっきりしたいですよね。
わかりにくいため、ここは、一番なじみのあるアメリカ英語のカーシェアリングと言ったら時間で分割するような要素、ライドシェアリングと言ったら相乗りで乗っていく要素というように使い分けましょう。

オーストリアとの比較

今までのカーシェアリングと比べつつ、どういうシステムか俯瞰的に見てみると、いくつか閉じたグループがあることがわかります。そのグループの中にそれぞれ車があってユーザがいる。誰か1人か2人がコーディネーターになっていって管理をしている。そこは、日本とオーストリアは共通です。

ただ、日本の場合はコーディネーターが個人で誰かがやっているのですが、オーストリアの事例だと、小規模な地方自治体がコーディネーターになるという例がある。そのように閉じたグループ、閉じたコミュニティの中でやっているのが大きな特徴です。
また、CARUSOのグループに属さない車も用意するようになっており、グループに属さない利用者も一応OKにしています。 こっちのグループの人が、自分の住んでいるコミュニティと違うところ、例えば仙台駅前に、グループに属さない車、全員が使える車を用意しておく。そして、仙台駅からこのグループに属さない全員が使える車で乗っていってもいいという仕組みも新しく導入している。1人の人が1つのグループに属していないといけないというルールや義務はないため、同じ人でも2つのグループに所属してもいいようにシステムが広がっています。これがどれくらい使われているかは、分かりません。「ハイブリット型」と書きましたが、コミュニティの部分を基本にしつつも、今までの既存のカーシェアリングを取り込むような形に発展しているわけです。 ハイブリッド型というのは、その発想の後ろ側にあるのは、車ですべてやるのではなくて、車とその他の公共交通機関をユーザが自分で選びながら使い分けるというもの。公共交通との相乗効果に期待するため、例えば右側が電車、左側がバスでそのまま乗り換えられるような公共交通の方もしっかり整備しておく。
ラウターラッハというChristianの出身地の例だと、日本だったら、自転車の駐輪所からホームまで遠いのですが、ここは自転車を止めたらすでに改札内のため、すぐに行ける仕組みになっている。駐輪所は屋根をかけておくとか、後ろにボックスがあって高い自転車で鍵をかけたいという人は有料で使えるというようなオプションもあります。

異なる2つの出発点

出発点は日本とオーストリアで全然違います。オーストリアの場合、西端のフォアアールベルク州の集合住宅で共同利用したいというところからスタートしています。
集合住宅から始めたが、そこから小規模な自治体のカーシェアリングの方に展開していき、上手くいっている事例は小規模な自治体で進んでいます。
技術革新、イノベーションの政府予算を取ったところから始まり、自動化された予約や走行の記録のシステムを開発し、カーシェアリングじゃなくても、会社の中でプールしている、社用車の予約にも使えるようにした。コミュニティを作るのと保険が自動車のシェアの時に大変なのですが、このようなソフトの面も形を整えていった。

オーストリアでカーシェアリングをしているところは、人口が700人もいないくらいのテューリンガーベルクという小さなところです。ここは自治体がカーシェアリングの車をオーガナイズしている。視察に行った当時で、だいたい15人くらいでカーシェアリングをしている感じでした。
例えば、別のランゲンエッグというところは、雪深く、人口1000人くらいの村。
ガウビッチという東の方の村は、辺境のような少し寒々しい村。そういうところでも、カーシェアリングが使われています。

一方、日本の方は先ほど吉澤さんから説明があったため、さらっと行きますが、仮設住宅への車の提供から始まり、徐々に復興公営住宅にいっているため、出発点が異なります。しかし、共通点も多く、先ほど申し上げたように時間で分割するカーシェアリングを基本にしています。
そこに相乗りのオプションをのせる。そのため、シェアの二つの側面をカバーしています。また、コミュニティが基盤になっていて、既存のコミュニティの町内会や、小さな自治会、あるいは集合住宅のように新しくコミュニティが立ち上がっていくような所が基軸になっています。
もう一つの重要なポイントは、電気自動車の活用をして、そこにフォーカスしているという点。あとは、地方部でできているといった共通点があります。ただ、スタート地点が違うため、強み弱みもそれぞれ違います。
オーストリアの方は、技術開発などからしているため、例えばコミュニティの面でもさらに強化できる。一方、日本の方はコミュニティはやっているものの、技術的な部分はこれからな点や、制度の方も難しいところがあります。

公共交通を今後どのようにしていくべきか。お互いやり取りがある中で、何かうまく補完できる可能性があるのではないかと考えています。

コミュニティ型カーシェアリングの可能性

2012年から2013年、ウイーン工科大学では、CARUSOのユーザを対象に、魅力や欠点を聞き出すグループインタビューを行いました。
その結果、魅力的な点として出てきたのは以下のようなものでした。
「顔が見えるところがいい」「気軽に使いやすい」「みんなの共用なので車の状態を良好に保てる」「コストも安くなる」「インターネットの予約システムがとても使いやすい」
反対に欠点は何かと聞くと、「あまり遠くに行けない」「充電する場所が少ない」など、ほとんど電気自動車そのものに関するポイントしか挙がってきません。つまり、カーシェアリングについてはみなさんあまり欠点を感じていないということが分かってきたわけです。

その他、使い方に関しては、オーストリアは2台目の車の代わりとして使っているところが多いことがわかりました。だいたいオーストリアの田舎の方は、一家に2台車があるようなところで、2台目の代わりになり始めているようです。
また、公共交通機関があるところは、そういうものが手薄な時間帯、エリアを補完する意味で、早朝、夜間、週末などに使われていることもわかりました。

さらに「助け合い、共助の性質」もあります。たとえば、同じところに行くときに一緒に乗っていくという使い方もできます。面白いのが、短期的に田舎にいる人、つまり、日本なら、帰省したときに息子が使うということですね。

「普段は電車を使っているが、たまに車を使いたい」という人は、集合住宅や地域コミュニティの中にそれぞれ存在します。そのような方は、良い付加価値と認識している人が多いようです。
これを後押しする外的要因のひとつは、世の中一般にシェア文化が浸透しているということ。もう一つは、英語ではミレニアルズといいますが、70年代末、80年代生まれの世代は、車を持たないライフスタイルでいいという人が多く、それが付加価値だと考えているということ。このような世代は、車は持ちたくないが、使えるときには使いたいという贅沢な世代です。

これは、アメリカの研究で若い世代がなぜ車を運転しなくなっているのか、という調査の報告書です。
日本では若い人に車が売れないという話がありますが、これは日本だけの話ではなく、ドイツ、アメリカでもどこに行っても共通で、そのようなライフスタイルが魅力だと感じる人が増えています。
車は、昔と違ってもはやステータスシンボルではなくなっています。このような新しいライフスタイルにとっても、カーシェアリング自体が後押し要因になるといえるでしょう。

また、目的とか荷物とかに応じて、交通の手段を自分で選択出来た方が当然いいですよね。そのような選択肢の多さ「マルチモーダリティ」が魅力になり、車なしのライフスタイルを可能にする要因にもなっています。
それには、社会なり町の方が選択肢を用意してあげないといけない。ヨーロッパ、日本も含めてこのようなものが整ってきているのも、外側の後押し要因と考えています。

最後になりましたが、先ほど申し上げたように、コミュニティ・カーシェアリングは伝統的なカーシェアリングである時間で分けるタイプのカーシェアリングだけではなく、移動そのもののシェア、相乗りによるシェア、ライドシェアの性質が強いといえます。
日本とオーストリアは出発点が違いますが、どこかで補完できる可能性があるのではないかと考えます。
コミュニティカーシェアリングというのは、「機能するもの」だとわかってきているため、どう発展させていくか考える段階にきているのではないかと思います。
例えば、公共交通ではカバーできない部分をカバーするという要素もありますし、みんなが車を持たなくてもよい時代になったら、それが地域や集合住宅の付加価値にもなります。それをバックアップする「マルチモーダリティ」という交通手段の選択肢がたくさんあるような社会が整ってきていまから、非常に大きな可能性があると考えています。

  • 駅に隣接するステーション
  • コミュニティ型の例
  • 乗り捨て可能なカーシェアリング
  • 自動化された自転車のシェアステーション
  • 高品質かつホームへのアクセスが格段によい駐車場の例
  • P2P型の例