第1回
『コミュニティ・カーシェアリング』シンポジウム in 石巻 開催レポート

講演③

共助のモビリティの可能性

政策研究大学院大学 教授、東京大学 名誉教授
家田 仁

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※講演内容を忠実に書き出ししておりますので、一部表現が話し言葉の部分もありますがご了承ください。

講演者の写真

1955年東京都出身。東京大学工学部土木工学科卒業、日本国有鉄道入社。1984年より東京大学工学部助手、助教授を経て、1995年 東京大学大学院 工学系研究科教授となる。2014年からは現職となる政策科学大学院大学教授と兼任。また、1980年代からは西ドイツ航空宇宙研究所交通研究部などへ客員研究員として派遣。社会活動としては国土交通省 交通政策審議会の委員等を勤める。研究分野は交通・都市・国土に関わる諸計画と諸政策。

共助と公助

昨日、愛知県長久手市の、介助犬のトレーニングセンターに行ってきました。現在、日本に介助犬は71匹いますが、必要な人は14,000人。200人に1人しかいないが、そのうちの一人に話を聞いたところ、落としたものを拾ってくれたりして、心配がなく外に出やすくなったと喜んでいるお話を伺いました。
介助犬のほかに、盲導犬や聴導犬もいます。これらを全部まとめて、身体障害者補助犬、サポートドッグというらしいです。
この補助犬が、市役所や電車、ホテル、レストランなど50人以上が働いている事務所は、義務として受け入れなければならないんです。知らないと思いますが、義務です。

実は、2002年に身体障害者補助犬法として法律化しています。それでも理解していないレストランなどがあります。また、犬が来たら衛生的ではないのではと思うかもしれませんが、犬はちゃんとトレーニングされた犬しか認定しません。使う人も、トレーニングを受け認定すると法律で決められています。
コミュニティ・カーシェアリングもそういう(法制化)段階に入らなければならないと思います。

さて、今日のテーマは共助です。なぜ共助か。
私も3.11以降、こちらにずいぶんまいりましたが、個人の住宅にもサポートができるようになってきました。不十分という声もあるでしょうが、阪神大震災の頃と比べて災害対策に対して公助が充実してきたんです。
つい先日も、民間住宅の耐震化費用の5割まで税金で負担することも決まりました。また、熊本地震では、ホテルや旅館も大ダメージを受けたということで、復興割ということで宿泊者は7割引ということも行っています。これも公助(税金)です。

ただ、よくやっているが限界性も感じています。
例えば南海トラフなどが起きたら、とても回りきらないだろう、行き渡らないだろうと思います。自助制度は、田中角栄が大蔵大臣の際に作った地震保険制度が1964年に作られて以来、あまり充実していません。
いろいろなところに対する自助・共助・公助がポイントだと思います。

先に結論めいたことを言いますと、これまでのモビリティをどう確保してきたかというと、基本的には自助です。昔は歩いていましたしね。事業者がやっているんじゃないかと思うかもしれませんが、利用者が使うお金によって事業が成り立っているので、これも自助です。
そうやってやってきたモビリティも、だんだん成り立たなくなってきた。だから公助が増えています。地方に税金から補助したり、地方自治体のコミュニティバスを走らせるなどは公助です。

モビリティも災害についても、将来にそなえて自助のシステムをもうちょっと充実させていかなければならない。コミュニティについていえば、今は67,68歳で運転できるから良いかもしれないが、10年後にも自信があるかといえば、僕だったら自信がありません。
今のうちに、例えば、将来連れて行ってあげるから今から会費払えと言われれば、払ってもいいかもしれない。つまり将来に備えての自助もあっていいと思います。
また、今取り組んでいる共助の展開によってモビリティを確保しようというのは、まさに公助ばかりやってきていたことに対するアンチテーゼとして、展開する余地があるのではないかと思います。

現状のモビリティは重装備!?

ここで、モビリティについて細かいところも含めて振り返っておきます。
基本的には、旅客運送というのは事業として作られています。それは、顔見知りではない人からの需要、つまり他人からの需要に対して有償でサービスを提供するという概念が基本になっています。これは電車であれ、飛行機であれ、タクシーであれ同じです。
そこには強い要求があって、1つは安全の確保。もう1つは、利用者を保護するということ、つまり、利用者に対してぼったくりしたり、その他違法なことをすることがあってはならないということ。この2つが大前提となっています。
この2点をから考えると、事業者は性悪説的にとらえるしかないという体系になっています。そのため、事業者は物理的にも制度的にも非常に重装備の事業体制を基本としています。それが道路運送法の基本です。
この結果、利用者を保護することにもなりますし、それによって、事業者が倒産したりするのを防いで、安定した輸送を確保しているというのが現状です。

ただ、この重装備性のために、いろいろ辛いところが出てきます。
1つは、重装備なので事業成立範囲が狭い。例えば僻地では成立しません。
また、サービス水準も高めにせざるを得ないのが2つ目。
3つ目は、重装備なのでどうしてもイノベーションマインドが出ない。新しいことに挑戦するということが出ないとは言いませんが、出にくい。

ここまでの歴史で言うと、世界中でマイカー減少が進展し、日本でも過疎化、人口減少が進んでいくなかで、よりこの状況が苦しくなっているのが現状です。
だから、今日の話と並行して、タクシーを含めた公共交通をどうしていくか、健全に維持していくかというのは極めて重要な議論のポイントです。
これまでの議論でも話しましたが、公的な助成を行うということや、市町村やNPOなどがサービスを提供する民間委託の方式や、自家用車でも性悪説でなくてもいいでしょうということで、有償運送を一部認めてきたのがここまでの流れです。そして、これは道路運送法の範囲内です。

一方、普通の事業者としてのレンタカーやカーシェアリングは、これはB2C型といっても良いのでしょうが、これもやはり道路運送法の中の「自家用車の有償貸渡」という行為として定義されている。
ただし、ICTの発展で、ITS、ETC、オンデマンドでのバスの配車や運行管理もずいぶん発達してきました。
この流れの中で、P2P、C2C、いわゆる普通の人to普通の人のサービスが登場してきた。それがICTをベースにしているため、マッチングサービスや配車のサービスということになります。
それで出てきたのが、Anyca(エニカ)といった個人間のカーシェアリングです。これは共同使用契約ということで、さきほどの道路運送法のルールを適用して良いことになっているし、Notteco(ノッテコ)という相乗りのサービスも登場している。
これらは、道路運送法の枠外です。つまり、お金の取り方も、任意の謝礼、つまり金銭に換算できるものではないこと、また実費であることという条件の中でやっているので問題ないでしょうという、簡単に言えばお目こぼし的なやり方です。

石巻のコミュニティ・カーシェアリングのキーワードは、「人柄」

一方で、吉澤さん達がやられている、コミュニティ・カーシェアリングというのは、ちょっと様子が違うところからスタートしていて、技術や町からスタートしているのではなく、ニーズからスタートしています。
これは自家用車の有償貸渡という点では同じですが、運転代行を行うんですね。AさんがBさんに乗せてもらうということやるんですね。これは法の枠外としての外出支援です。つまり、給料を払っているということではなくて、任意の謝礼を払っているということで、先ほど聞いたところだと、夕食のおかずをくれるとか、そういうのが任意の謝礼となるのでしょう。
そして、吉澤さんにもらった資料を読むと、こういったキーワードが出てくる。「善意」「人と人の関係」「相互扶助」「合意と納得」、驚いたのが「人柄」。
モビリティの話で「人柄」が出てきたことはないね。世界にないのではないでしょうか、「人柄」のカーシェアリングは。
ですので、世界の他のものとは随分違う感じがしています。

しかし、吉澤さんが取り組んでいることも、持続性を確立するためには、運転代行をボランティアで行ってくれている人をそれなりに位置づけないと長続きしないでしょうし、すごくボランティア精神がある人がすごく大変ということでは、どこでも適用することができない。ちょっと手伝いたいんだけども、いつもは嫌だよという人も入れるようにしたい。
それが1点目。

2点目は、法的な位置づけがあいまいなので、安全の担保やセキュリティの担保という面では、やはり不安要素が高いです。何か起こってからだと全部潰されてしまう。そのために私は法的な位置づけをきっちりつくる必要があると思います。
それは道路運送法に書くよりも、先ほどお話した身体障害者補助犬法みたいに、新しい法律に対してこういった概念を持ち出すほうが健全ではないかと思います。

最後にまとめたいと思います。今は変革期という点でまとめたいのと、共助のモビリティという点でまとめます。
ポイントは、技術や法律とかも関係ありますが、基本は国民の価値観の転換です。ただ、それは簡単ではなく、国よっても状況が違う。例えば、日本のタクシーはクオリティが高いが、給与水準の幅が狭い。大金持ちと貧乏の差が小さい。いろいろな努力をしながら今の水準がある。
だけど、それでも時々バスやトラックの事故が起こると、国は何やっているのだ、管理者は、となる。その点から問わないと、乗り越えられない、社会の極めて高い安全性要求をどうするのかが、国民の理解というところであります。

もう1つは自己責任概念の弱さが言われます。一方で、ICTの発展で個人の情報力向上してきました。また、社会観や貢献機会の拡大と共に、事業者の存在が相対的に軽くなってきます。
ただ、ICTならではの新たなリスクの登場、よさの裏にある危うさや脆さがある。ICTに問題が発生すると全てが止まってしまうリスクがあることを忘れてはいけない。
ぜひ、若い人たちが地方から始める日本型の共助のモビリティを作って頂きたいと思います。

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