第1回
『コミュニティ・カーシェアリング』シンポジウム in 石巻 開催レポート

パネルディスカッション

コミュニティ・カーシェアリングの幕開け 小テーマ1
コミュニティ・カーシェアリングの可能性と課題

MOVIE

動画でもご覧いただけます。

※講演内容を忠実に書き出ししておりますので、一部表現が話し言葉の部分もありますがご了承ください。

  • モデレータ:
  • 柴山 多佳児(ウィーン工科大学)
  • パネラー :
  • Christian Steger-Vormetz(CARUSO Carsharing eGen)
    家田 仁(政策研究大学院大学)
    鈴木 高宏(東北大学 未来科学技術共同研究センター)
    増田 敬(一般社団法人 石巻じちれん)
    吉澤 武彦(一般社団法人 日本カーシェアリング協会)
柴山
午前中の部では、吉澤さん、Christianそれぞれが石巻とオーストリアの事例を解説。その間に私の方でカーシェアリングの発展、シェアについて解説。午後は鈴木先生、樫部社長からICT、技術の進展を講演、家田先生からは共助のモビリティというところで、モビリティの中で共助はどのような位置づけになっているかお話しいただきました。
日本とオーストリア両方のキーワードとして、Christianのプレゼンでも触れていましたが、これまでのカーシェアリングは重装備でやってきた。家田先生のプレゼンテーションでも、日本の道路交通もやはり重装備という話でした。
それに対してコミュニティのカーシェアリングは軽量なシステムです。増田さんは石巻のカーシェアリング最初のユーザーですが、あまり重装備ではない軽量のモビリティ、共助のモビリティは機能するものだったのでしょうか?ユーザーの視点からお話しください。
増田
一般社団法人石巻じちれんの増田です。私が万石浦仮設にいて震災の年の6月中旬ごろ、吉澤さんが急にきて、「車を持ってくるので使いませんか?」という問いがありました。当時、私は車を持っていたため必要ないと思っていましたが、しかし、同じ仮設の中で病院に通う際などの交通手段で困っている人がいたので、力になれないかと思ったわけです。
私はそのころ仕事がなかったため、空いている時間を使って病院などの用事のお手伝いが出来ればという安易な形で取り組んでおりました。
柴山
うまく動く形が日本ではあったわけですね。
次はChristianにオーストリアの様子をもう少し聞きたいと思います。ユーザが使うときに非常に軽量で簡便なカーシェアリングとして、オーストリアでもコミュニティをベースとしたカーシェアリングを扱っていますね。満足したユーザがいるというスライドが先ほどありましたが、オーストリアでもこのようなコミュニティ的な簡便なカーシェアが既に機能すると考えてよいでしょうか。
Christian
コミュニティは、大変重要なものだと思っています。私たちの方ではカーシェアリングをやらなければならないというプレッシャーはありません。
ただ、やり始めてだんだんと成功しています。反響もいいですが、反対の人もいます。そのため、コミュニティ内でやるかどうかでしょう。トライをすることが重要だと思っています。
隣の人に運転してくれないか?と頼むのは難しい。皆自分の車を持っていて、自分で乗っていけば十分だと思っています。しかし私たちは、カーシェアリングをやってみようと思いました。
ただ、みんなで話し合ってコミュニティの中でサポートをしていくことが重要だと思いました。メンバーが同じような権利を持っていて、誰かが誰かに請うのではなく、同じレベルに立って、同じ視点で新しいシステムを開始することが大切。どういう形でカーシェアリングをするかは事前に皆で決めていく必要があると思います。
柴山
軽量なカーシェアは、ユーザ側やオーガナイザー側の努力があって、動く段階にあります。家田先生の方から話があった重装備ではないモビリティの枠組みがあったらいんじゃないでしょうか。既存のものは、新しいものが出てきたときにどう棲み分けしていけばいいのでしょう。
家田
重装備と軽装備のアナロジーを1つ言ってから。
NHKの番組で田中陽希さんが、日本100名山を歩き、今年は200名山を歩きました。この前は、アルプス縦断を何日かで走っていました。そういうのは、登山とは言わず、山道を走るという意味でトレイルランニングといいます。持っていくものが軽量で、雨具も薄いのを一枚だけ。他にも食料も水も少しだけ。足も膝から下は出していたりします。
伝統的な登山をやる人間からすると、あまりにも装備が少ない。その代りに何が良いかというと、伝統的な予備用の食料やテントがあると重装備で荷物が多くて遅い。例えば、1泊2日かかるところを彼らのトレイルランニングだと半日かからずに登る。だからこそ軽量で済むんです。それによって新しい世界が切り開けている。全く新しい、従来の登山の楽しみ方とは違う世界が開けている。
ただ、ここで注意しなければいけないのは、誰でも出来ることではないということです。つまりトレイルランニングをやる人の個人的な身体能力は、はるかにパワーがなければならないと同時に、自己責任も果たしている。
保険にも山岳保険に入って、仮にそこで何かあっても暗黙のルールとして携帯で警察を呼ぶのは恥というカルチャーをトレイルランニングの人は持っている。
今までの運輸事業に重装備を求めてきたのは運輸事業そのものではないし、国の規制当局でもない。国民です。イノセントなユーザが自分は責任を取りたくない、全てのことは事業者が責任を取ってくれ、という体制を要求してきたから。
そしてそれをもっと助長するような裁判結果が出るため、そうゆう風になってきたわけです。我々会員がこうゆう自己責任を取る準備が出来ています。だからおめこぼしの軽量化ではなく軽量化でいい。
我々はトレイルランニングというような概念で、おめこぼしの軽量化ではなく、正当なる軽量化でやったらどうかと思います。
柴山
正当化という言葉が出てきたが、何かしら枠組みをつくらなければならない。ドイツ語でも枠組みに相当する単語はある。枠組みの中で道路運送法というのが出てきたが、その他にも例えば何か交通の大きい枠組み、2013年には交通基本法ができたがその辺ともマッチしていると言ってもよいか。
家田
「交通基本法」と言っているのは民主党の政権の時の概念で、自民党政権になってからさらに進めて成立したのを「交通政策基本法」と呼んでいる。この基本法は今まで交通についてなかったが、これが登場することによって、モビリティの確保が国民生活にとって極めて重要な性能であると書いてある。モビリティの充実に関して国民が理解と協力をしていかなければならないと書いてある。あるいは地域の公共交通の充実について利用者や自治体が何か計画していくのであれば、地域の住民は協力しなければならないとも強く書いてある。そのため、枠組みとしてこのモビリティ問題をより積極的にとらえようというところまでは法律によってできたが、安全は何段階かあってもよいというのが書いてあるわけでもない。自己責任がどこまでと書いてあるわけでもない。あくまで交通サービスの必要性と国民上げて協力しなきゃいけないとしか書いていない。そこから先の具体化は個別法を作るなり、あるいは従来の法を充実していくなり、あるいは法とは関係なしにどんどんいろんなことをやるという実践の場になるのではないか。
柴山
交通政策基本法を背景に、東京の交通のモビリティは何もしなくても回るが、苦労しているのは地方部です。仙台はどうにか回るかもしれない、あるいは石巻の中心部までは何とかなるかもしれないが、その外側はモビリティというのが難しくなってきます。その中にコミュニティ型というのも出てくる。
今回のパネルディスカッションお題が3つあります。まずは、可能性と課題という点。それから公共交通とどうやって他の機関と連携していくかというところによりフォーカスを絞っていきたい。そして今後の展開。
まずモビリティの必要性というところで、これは割と分かっているようで意外と分かっていないようなところもあります。実は交通という漢字に含まれている「交わる」「通う」というところで、人間生活の基本となるところ。そうゆう意味でいろんなことに関して重要。吉澤さん、石巻のカーシェアを見ていて、まずいろんな目的でみなさん使っていると思いますが、みなさんどうゆう目的で使っているか、あるいはどうゆうところで使われていないのか、それはこうゆう課題なんじゃないかとか、何か見えているものはありますか。
吉澤
使われているのは、セカンドカーとしてや、車が足りなくて使っている人は個人の用足し。コミュニティの中でシェアしているので、仕事で通勤に使うとかはなかなかできません。あとは外出支援だと一番多いのは通院、買い物、趣味が多いです。それから飛び越えてコミュニティで旅行やイベントになどに使われている。
使えていない領域は、僕らの場合は年配の方が多いので、若い方の参加が課題。友達同士で気軽に行くというのが出来たら面白くなってくる。そのためにはICTが必要だと思っています。
柴山
オーストリアの方ではどうでしょう。オーストリアのCARUSOのカーシェアリングユーザはどうゆう目的で、又はどうゆう距離で行くときにカーシェアリングを利用していますか?
Christian
かなり違っていて、いろんな目的に使われている。例えば、定期的なこと、職場に行くとか。EVは距離が制限されているため、50km以内であるとか。旅行に行くときにも使用されています。マイカーと同じように使用されています。
近距離200Mくらい、煙草を買いに行くなどは、カーシェアリングで車を使うのは有意義かどうか考えると、歩いたほうがいいのでは、とも考えます。そのため、必要なもの、職場に行くなどの時に使用されている。
柴山
通勤はどうしているんですか?毎日使っていないということでしたが。
Christian
理想的なのは交通機関や自転車、ないときはマイカー。先ほどあったように、自分の車で最寄り駅まで行き、公共鉄道にのるなども行われています。カーシェアもそのツールの一つとして使われています。カーシェアリングは駅の近くに必ず車が置いてあって、乗り捨てた車に誰かが乗っていかなければならないので、そこまで上手くいっていません。
柴山
コミュニティのカーシェアリングの強みとしてサポートしやすいエリア、それから先ほど重装備、軽装備という話もありました。共助によるモビリティでカバーするところと、従来のところは重なるか。それとも何か棲み分けがあるのでしょうか。
家田
介助犬は普通の人はいりません。必要のある人がやっています。介助犬が通っているのは普通の駅であり、レストラン。空間的に言えば、車に乗っている人は介助がある人でもいるし、そうじゃない人もいるので重なっています。
そのため棲み分けというより、概念としては何か違う2つのものがあって、1つはこうゆうサポートがなければ外出できない。ある種福祉の一環としてやるべきという交通の世界と、すぐそこまでマイカーに乗るのはおかしいという環境フレンドリな、あるいは現代的な生き方をしたいっていう向きでの概念的には違いますが、同じところに同居してもいい。あるときには人口密度が比較的高いとこではむしろ公共交通の側がそれをやってもいい。しかし、公共交通では、もしバスだったら日に2往復だったらしょうがない。タクシーを呼んでも1時間かかるようなところでは厳しい。そうゆうところについては、コミュニティに立脚した、つまり地元に立脚したシェアリング型のシステムがでてきます。場所による棲み分けはあると思うが、オーバーラップするところもある、という世界ではないでしょうか。
柴山
石巻はオーバーラップがよく起こっているのではないでしょうか。鈴木先生の目から見て、オーバーラップしそうなエリアでしょうか。
鈴木
石巻だけに限らず、地方の現場を見たことを含め、家田先生がおっしゃるように複数目的を混在させないと成立しないという状況です。五島市では、学校が遠いのでスクールバスを自治体で走らせています。歩いて通うのはいろんな危険がありますが、スクールバスは自治体とか地域で走らせていたりする。子供たちを送っても、空きの部分が出てくる。そこに高齢者のデイケアの移動を一緒に乗せるなど、特例的にやらないと実現しないが、そのような例を見たことがあります。
地元の方だけでところでやっているコミュニティバスは、仙台では観光用ループルというバスがあります。観光スポットを回るのですが、実は主要な所を回るので、日常の用足しに使っている人も一定数いるようです。
税金を使った公共の乗り物になると、それ以外の目的の人は乗せられないというように真面目にやってしまうところが多いのですが、そこを少し緩めることによって、少なくともモビリティとしてのカーシェアの稼働率や利用率は上げられる場面はいろいろある。ただそこをどう理屈付けするかどうかは、課題だと思います。
柴山
先ほど家田先生の話に合った、既存の枠組みでお目こぼし的にやるのか、それとも新しく法律を作るかというところにもつながってきますね。