第1回
『コミュニティ・カーシェアリング』シンポジウム in 石巻 開催レポート

講演①

石巻カーシェアの意義と可能性~EV、ITS、エネルギー、コミュニティ+αのシェア~

東北大学 未来科学技術共同研究センター 副センター長・教授
鈴木 高宏

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※講演内容を忠実に書き出ししておりますので、一部表現が話し言葉の部分もありますがご了承ください。

講演者の写真

1998年東京大学工学系研究科博士課程修了、工学(博士)。同大生産技術研究所講師、助教授、同大情報学環の後、2010年から長崎県庁に出向し長崎EV・ITSプロジェクトを推進。2013年東大に戻り、2014年から現職。この他、電気自動車普及協会(APEV)理事。学際的にロボット・次世代交通など先進技術の社会実装に取組み、仙台市の特区認定に貢献、自動走行等の近未来技術の実証を推進している。

「長崎EV&ITSプロジェクト」と吉澤氏との出会い

まず、簡単に自己紹介をさせていただきます。
私は東京大学の生産技術研究所で10年あまり研究をしておりました。もともとの専門は、ロボットの非線形制御でしたが、2000年ごろからITS(インテリジェントトランスポートシステム)の研究、自動運転、DS(ドライビングシミュレータ)、もしくは人間のドライバーモデルなどを研究しておりました。
そういう中で、プロジェクト的なマネジメントの取り組みをしていたこともありまして、ひょんなことから2010年から3年間、長崎県庁の幹部職員として出向いたしました。
そのとき、長崎EV&ITSプロジェクトと申しまして、五島列島において電気自動車アイミーブのレンタカー、タクシーなどによる、観光をはじめとした地域活性化プロジェクトに携わっておりました。
期を同じくして、本日、隣の部屋でデモ展示をしております、東京大学と東北大学が連携した取り組みが始まっておりました。
実は、東日本大震災を境に、地元の大学周辺では多様なプロジェクトが開始されておりました。ただ、当時私は長崎におりましたので、直接的には関われておりません。
今日もうひとつ出展させていただいている、電気自動車普及協議会(当時)の椎木事務局長と震災の3カ月後に石巻を視察させていただいたのが、石巻との一番最初のご縁になります。

当時来たときに、この地で電気自動車が災害の復興に活用されているところを拝見させていただきました。ただ、そのときは自分としては直接的に貢献できるものがまだ十分になく、少し悔しい思いを抱えながら長崎に戻りました。

さて、話の都合で長崎について簡単にお話しさせていただきます。
長崎県は日本の本土の西の端です。そのさらに先に五島列島がありまして、東京23区と同じくらいの面積に、6万人住んでおります。石巻とはけっこう共通点があり、クジラ取りの歴史があったり、魚が非常においしく、日本の美しい自然を残す数少ないところです。
そこに新しい電気自動車を100台導入したのが、このプロジェクトでした。当時としては世界一電気自動車が走りやすい島を目指しておりました。島の大きさは100㎞ほどであり、ちょうど電気自動車の航続距離にあてはまりますが、観光では充電が必要になるため、急速充電器を観光の名所に新たに設置し、休憩中に充電できるようにいたしました。その取り組みによって2013年に国際的な賞を頂きました。
五島列島は二つの自治体に分かれており、五島市と新上五島町は歴史的にあまり仲が良くなかったのですが、この取り組みによって協力することができました。
電気自動車だけでなく、ITSなどの情報システムをつなぎ、さらに当時脚光を浴びてきた再生可能エネルギーをつなげて、車、情報、エネルギーのネットワークを地元ベースでつくっていきましょうという概念を立てておりました。

その後、2013年に東京大学に戻りましたところ、吉澤さんとの出会いがありました。2013年9月末にEVレンタカーの事例調査で吉澤氏が長崎県五島市を訪問されたのですが、私は東京におりましたから、五島市を通じて電話をいただき、「電気自動車でレンタカーというのに興味があるのでお目にかかりたい」とおっしゃったわけです。

実は、なんで私が東京大学に戻っていたかといいますと、2013年10月に東京でITS世界会議があり、長崎県のプロジェクトの最後の仕上げとして、世界中に向けて自治体が主体となってアピールするのというのがあったわけです。
このとき、かなり頻繁に吉澤さんも、竹中先生と来ていただきましたし、ちょうど文部科学省の国際シンポジウムが仙台で行われたため、石巻まで足をのばし、そのとき初めて石巻のカーシェアリングの現場を訪問させていただいたわけです。
東北大学に異動したのは、実は吉澤さんたちの取り組みと出会えたのが大きかったといっても過言ではございません。

復興をサポートする「次世代エネルギー研究開発プロジェクト」

東北大学の中にはさまざまな研究室がありますが、この中で我々が取り組んでいる次世代移動体システム研究プロジェクトというのは、単に今ある自動車の未来を考えるだけでなく、将来の移動をどのように考えたらよいか、それを支えるためのテクノロジーをどのように作っていけばよいかを、20ほどの大学の研究室が連携した勉強会から始まったものです。
勉強だけで終わらず、具体的に見えるようにしようということで、東北大学青葉山キャンパスの交通問題を、まず自分たちで解決しようというものでありました。
この内容は大学教授においてリスクの大きいものでした。なぜなら、自分たちの研究の悪い点が世間に露呈してしまうということであるため、責任の大きい内容であり、普通の人では踏み出さない内容であったと思います。しかし、それを実施して少しずつ理想に近づきつつあります。
こういうものが本当に役に立つものであれば、東北地域のような色々な移動の問題を抱えているところにも広げていくべきだろうとなったわけです。

多賀城にみやぎ復興パーク(ソニーの工場敷地内)にある施設に様々なデモ展示を行って新しいモデルの発信を行っております。その中に、地元の企業に新しい産業を作ろうという取り組みを行っているものと、もう一つ文部科学省の復興プロジェクトの次世代エネルギー研究開発プロジェクトを行なっています。本日は、復興プロジェクトのほうをご紹介したいと思います。
三陸の沿岸で波力発電や潮流発電などの海洋エネルギーを開発するもの、微細藻類から油を生成するという研究もあります。そのようなエネルギーをどのように活用するか、地域の移動に還元するかを考えております。
すごく簡単に言うと、自然エネルギーでクリーンな電気を作り、それを使って上手に移動するという取り組みです。

統合交通シミュレーションを使用して、例えば津波が起きた避難時のシミュレーションを行っています。一方で、平時の電気自動車が普及した際に、地域の電力系統にどのような影響を与えるのか、というのシミュレーションを行う仕組みを作りました。さらに、その結果を直観的に理解しやすくするために、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を使っているのが今日展示しているものの一つです。これは、三次元計測できる車両を走らせていろいろなデータをとり、それによって石巻の風景をデジタル空間の中に作り上げております。一方で、そこに、シミュレーション結果を重ね合わせて表現することで、たとえば、ガソリン自動車で走ると、二酸化炭素がいっぱいになるよということがわかるような仕組みをつくっております。

もうひとつ、実際のドライバーがどのように行動するかをDS(ドライビングシミュレータ)を使って研究しています。ただ、今日、これは多賀城の復興パークにあって持ち運べないので、今日はノートPC上で同じシナリオが再現できるものをお持ちしています。また皆さんが自分の車でこのシステムを使えるように、スマホアプリなども開発しています。

こういうふうな様々なテクノロジーを皆さんに使って頂けるようにする取り組みを行っており、今日のシンポジウムでの展示もその一つです。また、10月23日の石巻総合防災訓練には間に合いませんが、このシステムを使用して頂けると、ある避難所で電気が不足した際に、充電の電池に余裕がある人が電気自動車で移動して電気自動車から電気を供給できるようにして助けるということができるように考えております。
さらに、将来に向けての取り掛かりとして、さまざまな先端技術を世の中に出していくという取り組みをしております。特区として仙台市では沿岸地区に災害危険区域として広大な空き地があるため、地域の未来のための実験場としていってはどうかということで、デモンストレーションを行っております。
これは仙台市の東部にある荒浜というところです。去年の夏頃にはまだ津波の被害の跡が残っていたりして、こういう場所での取り組みには重い責任を感じています。ここにあるような狭い道路は、地方の現場にはたくさんあるので、整備されたテストコースで実験することよりもこうした場所での取り組みは重要ではないかと考えております。
特に国政府では、地方の現場のラストワンマイルを研究開発することが大切であると掲げているのですが、それを実現するにはさまざまな方法がああります。
たとえば、小型の電気自動車を高度に自動化するのは大変ですが、これは、群馬大学の先生と連携した内容で、車に通信ケーブルを付けて、引っ張るような仕組みであれば、簡単に実現可能だと考えております。
東北大学の技術の特徴は、東北地域に多い悪天候や悪条件をクリアする技術です。また、もう一つ非常に大事だと思っているのは、高齢であったり、病気を持たれている方が、運転中に気を失ってしまうといったことがあるため、自動走行の技術で安全に車を停止したり、病院へ送迎するといったようなことを考えております。

「シェアリング」に代わる日本独自の言葉を模索したい

さて、このままですと、ただ先進技術を使ってくださいというだけのプレゼンになってしまうので、本日のシンポジウムに合うように考えてみたいと思います。
石巻のEVカーシェアリングで目に留まったものは、EV旅行でした。ユーザーに話をお聞きすると、電気自動車を使用するにあたって、電気自動車で旅行に行く取り組みをすごく楽しく話しておられました。
電気自動車は途中で充電が必要になりますが、そのために様々な所に立ち寄って、またみんなで集まったりという電気自動車では一見不利な特徴を、旅行のイベントのひとつとして楽しまれているところがひとつの特長だったと思います。

これはひとつの参考データですが、「運転の楽しみとは何か?」というアンケートでは、他の年代では走りの良さや車自体のスペックを重視しているのに対し、70歳代は突出して「時空間的な移動の自由」を重視しているのがわかります。
また、車に乗って一人のプライバシーを得られるというよりも、全世代を通じ、車に一緒に乗ることを重視していることが分かりました。

また、石巻のコミュニティ・カーシェアリングを見た時に気が付いたのですが、車を個人で所有するか、みんなで共有するか、この内容においては社会復帰するためには共同所有してでも車が使える必要があったという背景があります。
共同所有から、車が運転できない人が相乗りする助け合いのシェア、車の利用によるお茶会や旅行によるコミュニティ作りといったことがあり、電気自動車ではエネルギーのシェアなど、いろんな意味がある事が面白い点です。

普茶料理というものをご存じでしょうか。長崎で初めて知ったのですが、これは臨済宗黄檗派黄檗宗の隠元和尚が中国から持ち帰られた精進料理の一つです。禅宗なので肉は使用しません。隠元和尚は、実は今の日本の食事風景に大きな影響を与えた人で、円卓を囲んで大皿を突き合うというものが特徴です。それまではお膳を一人一人で使い別々に食べるスタイルや、囲炉裏を囲んでといったスタイルであったのですが、大皿でひとつの料理をみんなでシェアするようになったのが、普茶料理が一つのオリジンだということのようです。
そういった気づきもあり、これは家田先生からの発案ですが、シェアリングという欧米から新しく来た概念ではなく、日本の生活に染みわたっている、もっといい言葉を考えたらよいのではないかというのが、ひとつの課題ですが、これはこの後のパネルディスカッションにしていけたらと思います。

もう一つ我々の課題は、これを支えるためのテクノロジーをどのように作ったらいいかということです。たとえば、我々はいろいろな取り組みを持っていますが、横断連携が出来ていなくて、それが出来るようなプラットフォームを作っていくことが大事であると考えております。

  • 次世代モビリティ研究センターのブース
  • ドライビングシュミレータの体験ブース
  • VR体験の様子
  • ドライビングシュミレータを体験する子供たち
  • 長崎EV&smp;ITSプロジェクト
  • 小型の電気自動車
  • 鈴木氏と石巻市長の亀山氏